01私たちの仮説
出発点はシンプルでした。「英語しか対応していない優れたOSSは山ほどある。日本語化すれば、それだけで国内に需要が生まれる」——実際、日本語化されていないOSSはたくさんあります。だから、そこに機会があると考えました。
この仮説で、私たちは製品候補を絞り込んでいきました。絞り込むほど、仮説が足元から崩れていきました。
日本語化されていない
=日本語化すれば
=需要を独占できる
翻訳率が高い=差別化不可
翻訳率が低い=需要が無い証拠
翻訳自体=誰でも投入でき占有不可
02翻訳率は、両方向から失格シグナル
翻訳率を測ると、高くても低くても、それぞれ別の理由で失格になりました。
opensourcepos/opensourcepos です。46のロケール(言語)に対応しているのに、日本語だけありません(2026-07-20実測)。これは「日本語化のチャンス」ではなく、「日本人がこのOSSを使っていない」というシグナルでした。もう一つ、象徴的な実例があります。かつて日本語コミュニティが盛んだったConcrete CMS(旧concrete5)の、日本ユーザーグループのサイトです。本家の状況が変わって、サイト自身が役目を終えたと明言しています。
当サイトの存在意義はほとんどなくなったため、積極的には更新せず過去のアーカイブとして残している状態です。 Concrete CMS Japan(旧concrete5 Japan)公式サイト
03翻訳は占有できない=堀にならない
仮に日本語化されていないOSSを見つけて、自分で翻訳したとします。それは競争優位になるでしょうか。なりませんでした。公開型の翻訳基盤では、翻訳を独占できないからです。
Anonymous users (by default) can only forward suggestions. Weblate 公式ドキュメント(既定の挙動。実際の権限は設定による)
翻訳は、時間さえかければ誰でも同じものを作れます。しかも公開基盤なら、あなたの翻訳に他社がタダ乗りすることさえできる。「日本語化」は、堀の定義を最初から満たしていませんでした。
04翻訳率を機械的に測る方法
失敗の副産物として、翻訳率を機械的に測る手段は手に入りました。翻訳にWeblateを使っている公開プロジェクトなら、認証なしでAPIから取れます。
GET https://hosted.weblate.org/api/translations/<project>/<component>/ja/statistics/
05本当の堀は「制度」だった
では、何が堀になるのか。答えは「制度が国ごとに違う領域」でした。翻訳という表層ではなく、制度対応という深いところです。
- 本家が優先的にはやらない日本固有の税・会計・法定帳票は、グローバルの本家にとって優先度が低い。放置されやすい領域だから、そこに手を入れる価値が残る
- 支払意思が高い法令遵守は「欲しい」ではなく「要る」。規制ドリブンの需要は硬い(ただし認証の罠に注意)
- ストック型の保守需要が出る制度は改正され続ける。改正のたびに保守需要が生まれるので、一度作れば継続収益になる
06何を撤回したか
最後に、この記事で撤回したことを明記します。誤りを認めた経緯こそ、信頼できる情報だと考えているからです。
売れるかどうかを決めるのは、翻訳の有無ではなく、制度の壁の深さと、日本語の需要が既に存在するかでした。同じ轍を踏む人が減れば、この撤回にも意味があります。
データ・出典
- Concrete CMS Japan(旧concrete5 Japan)公式(「当サイトの存在意義はほとんどなくなった」の逐語。積極更新しない理由3点も同ページ)
- Weblate 公式ドキュメント(Suggestions)(「Anonymous users (by default) can only forward suggestions.」)
- 翻訳率の実測:
GET https://hosted.weblate.org/api/translations/weblate/application/ja/statistics/(2026-07-20・total 4,724 / translated 3,812 / 80.6%・匿名100req/日) - Open Source POS のロケール:
opensourcepos/opensourceposのapp/Language/を実確認(2026-07-20・46ロケール・日本語なし。Language code definitionはロケールでなくファイル) - 制度が堀になる実例:OSS ERPは日本で使えるのか(Odooの l10n_jp に消費税申告書レポートが含まれる件)