01成立している6事業者
まず全体像です。数字はすべて各社の公式発表・公式サイトから取りました(取得日は2026-07-19)。
| 事業者 / サービス | 対象OSS | 規模 | 価格 |
|---|---|---|---|
| ファーエンドテクノロジー My Redmine |
Redmine | 1,700社以上 十数名規模 |
月11,000円〜 (ユーザー数無制限) |
| アジャイルウェア Lychee Redmine |
Redmine | 7,000社超 59名/売上13.9億円 |
900〜2,100円/ユーザー (無料プランあり) |
| サイオステクノロジー Matomo クラウド |
Matomo | 非公開 | 初期10万円〜 +月5万円〜 |
| 野村総合研究所 OpenStandia |
Keycloak ほか多数 | 契約6,000件以上 (OpenStandia全体) |
非公開(個別見積) |
| MY HATCH ERPNext.jp |
ERPNext | 共同創業者2名 従業員数は非公開 |
PoC 50万円/買切600万円 /保守 月10万円 |
| Zabbix Japan | Zabbix | 非公開 | 個別見積 |
まず言えるのは「成立はする」ということです。売上14億円規模まで育った会社があり、2名で高単価に振った会社もあり、上場企業の一事業として6,000契約を積んだ例もある。ビジネスモデルとしては死んでいません。
問題はどうやってそこに到達したかです。ここに、私たちが完全に読み違えていた構造がありました。
02ファーエンドは、課金の2年前から情報サイトをやっていた
島根県松江市のファーエンドテクノロジーは、Redmineのマネージドサービス「My Redmine」で1,700社以上を獲得しています。この会社の年表を並べると、順序が非常にはっきりします。
情報サイトが課金開始の約2年前に存在しています。しかも会社より先です。そして本人が、サービスを始めたときのことをこう書いています。
正直、広告や宣伝をまったくしていないのにお問い合わせを頂き嬉しいのと同時に驚きました。
— ファーエンドテクノロジー「Redmineのクラウドサービスを始めた理由」
広告を打たずに問い合わせが来たのは、偶然ではありません。その2年前から、日本語でRedmineを調べた人が必ずたどり着く場所を運営していたからです。
03顧客側の証言が、この構造を裏側から証明していた
いちばん決定的だったのは、売り手ではなく買い手の言葉でした。My Redmineの導入事例で、丸紅ITソリューションズの担当者がRedmineを選んだ理由をこう説明しています。
Redmineは日本語の情報も非常に多く、日本語のコミュニティもしっかりしていて、情報も豊富でした。
— 丸紅ITソリューションズ 経営管理部 石塚氏(My Redmine 導入事例)
この会社は製品を売る競争に勝ったのではありません。顧客が「Redmineにしよう」と決める、その手前の意思決定を自社コンテンツで作っている。比較表に並ぶ前に、勝負がついています。
04他の事業者でも、順序は同じだったか
NRI OpenStandia(Keycloak ほか)
サービス開始は2018年1月19日。そのリリース文にこうあります——「NRIは、Keycloakの公式ドキュメントを日本語に翻訳する活動を推進し」。翻訳活動がサービスに先行していたことが公式に書かれています。加えて同社はKeycloak本体にプルリクエストを送ってマージされた実績(ブルートフォース検知、トークンリフレッシュの同期制御など)を具体的に公開しています。単なる代理店ではなく、上流に手を入れる立場を取ってからサービス化しています。
Zabbix Japan(寺島広大氏)
これが順序としてはいちばん極端でした。
個人でコミュニティを始めてから、日本法人の代表になるまで9年。順序は完全に「情報 → 事業」です。
アジャイルウェア(Lychee Redmine)— ここだけ構造が違う
正直に書きます。この会社の最大のレバーは情報発信ではありませんでした。販路です。2017年4月19日にテクマトリックス株式会社とパートナー契約を締結しており、これが規模拡大の決定的な要因とみられます。売上13億9千万円(2025年度)・従業員59名は、今回調べた中で最大です。
つまり「情報のポジション」以外にも道はある。ただしそれは『大手の販売網に載る』という、個人には再現できない道です。
サイオステクノロジー(Matomo)
ここは入口が違い、「他社製品のサポート終了で行き場を失った顧客の受け皿」です。導入事例に「UrchinやSiteTrackerといった従来ツールのサポート終了に伴い」と明記されています。Google Analyticsと正面から戦うのではなく、GAが社内規定や調達要件で使えない官公庁・金融という制度的な避難先を取っています。価格は初期10万円〜+月額5万円〜(100万PVまで・税抜)。
05少人数で成立させている例(ERPNext.jp)
「規模がないと無理なのか」という疑問に対する、いちばん参考になる実例がこれです。ERPNext.jpは共同創業者2名を公表し(従業員数は非公開)、佐賀・福岡を拠点にERPNextの導入を手がけています。価格体系が明快です。
| メニュー | 価格 |
|---|---|
| PoC(固定価格) | 500,000円 |
| ソース一式 買い切り(自社利用) | 6,000,000円 |
| 伴走支援(実働ベース) | 15,000円/時間 |
| 保守サブスクリプション(標準) | 100,000円/月・税別 |
※保守は エコノミー5万円/標準10万円/プレミアム15万円の3階層の中位です。
06正直に言うと、この構造は簡単に真似できません
ここまで書いておいて水を差しますが、「情報を先に積めばいい」は言うほど軽い話ではありません。調べた範囲で分かった、率直なところを書きます。
- 時間軸が長すぎる。ファーエンドで2年、Zabbixの寺島氏で9年。数ヶ月で結果が出る性質のものではありません。
- 先行者がいる領域では席が空いていない。「Redmine」で日本語検索したときに出てくる場所は、もう埋まっています。空いているのは、まだ日本で誰も情報を書いていないOSS=そもそも日本での需要が未知の領域です。ここは鶏と卵になります。
- 収益倍率は高くない。ファーエンドの買収は取得1億3,500万円/売上1億1,700万円で、売上の約1.15倍。1,700社を17年かけて積み上げた事業の評価としては、SaaSとしてはかなり控えめな水準です。夢のある出口を期待する事業ではありません。
- 大手の販路に載る道(アジャイルウェア型)は、個人には開かれていません。
それでも、この6社を並べて見えた事実はひとつだけはっきりしています。「良い製品を用意してから集客する」順序で成功した例が、確認できた範囲で存在しない。全社が逆でした。私たちはその逆の順序をやっていたので、この記事は自分たちへの反省文でもあります。
07この記事を書く前に、間違えていたこと
公開前に全部の数字を出典まで遡って確認したところ、自分の手元資料に4つの誤りが見つかりました。訂正して記録しておきます。
とくに1つ目は実在する別の会社の名前を書いていたので、公開前に気づけてよかったと思っています。「調べた」と「出典を確認した」は別の作業でした。
データ・出典
- ファーエンドテクノロジー「Redmine.JPを開設したのは2007年10月3日です」/会社概要(設立2008-09-09)/沿革/Redmineのクラウドサービスを始めた理由/My Redmine(1,700社以上・価格)
- 日本M&Aセンター:イルグルムによるファーエンドテクノロジー株式取得(2022-01-28開示・取得1億3,500万円)
- My Redmine 導入事例:丸紅ITソリューションズ
- アジャイルウェア 会社情報(59名・売上13億9千万円)/Lychee Redmine(7,000社超)/テクマトリックスとのパートナー契約(2017-04-19)
- サイオス Matomo 料金・プラン/導入事例/Google: End of an era for Urchin Software(2012-03-28販売終了)
- NRI: OpenStandia/Keycloak サービス開始(2018-01-19)/OpenStandia Keycloak(コード貢献実績)/OpenStandia(契約6,000件以上)
- ERPNext.jp 会社案内/料金プラン
- @IT:寺島広大氏インタビュー(ZABBIX-JP 2005-08、2006-01ミラクル・リナックス、2011-04 Zabbix SIA移籍)/クラウドWatch:Zabbix Japan設立(2014-10)