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一次データ + 訂正記録

日本人が実際に使っているOSSを実測した

「日本でどのOSSが本当に使われているのか」を知りたくて、日本語記事の数を数えました。結論から言うと2回、測り方を間違えました。1回目は「セルフホスト」という言葉で記事を集めてRedmineが1件しか出てこないという壊れた結果を出し、2回目は全文検索で数えてn8nが101,899件になりました。3回目でようやくまともな数字が出たので、失敗した2回も含めて全部公開します。

公開:2026-07-19読了:約10分データ取得:2026-07-19
3回やって、3回目でようやくまともな数字になりました
試み①
「セルフホスト」で記事を集めて突合
Redmine 1件
試み②
全文検索の件数を数える
n8n 101,899件
試み③
タグの items_count を引く
Redmine 1,477件
失敗した2回も、なぜ壊れたかまで含めて本文に書いています。

01なぜ数えたかったのか

私たちは「海外のOSSを日本語のマネージドサービスとして提供する」という事業を検討していて、候補を選ぶ基準がほしかったのです。具体的には、こういうOSSを探していました。

この1つ目、「日本で既に使われているか」を推測ではなく数字で知りたかった。GitHubのスター数は世界合計なので、日本の実態はまったく分かりません。そこで日本語の技術記事の本数を代理指標にすることにしました。

02失敗①:「セルフホスト」という言葉で記事を集めた

最初にやったのはこうです。Qiita API と Zenn の検索APIで、日本語記事を機械的に集めました。

この2,760本の本文に、別の調査で作った「商用SaaSに転用できるライセンスのOSS」917件の名前が出てくるかを突き合わせました。結果、登場したのは29件だけ

種別登場したOSS(言及数)
生成AIOllama(47) / Langfuse(14) / AnythingLLM(4) / LibreChat(1)
開発者ツールGitLab(19) / Forgejo(6) / Gitea(2) / NGINX(4) / Nginx Proxy Manager(1) / draw.io(1) / Evidence(2)
インフラ・個人用途Thingsboard(4) / Joplin(2) / penpot(2) / AdGuard Home(1) / Home Assistant(1) / Asterisk(2) / PufferPanel(2) / Habitica(1)
業務システム系WordPress(8) / Umami(2) / Synapse(2) / Superset(1) / Redash(1) / Gotenberg(1) = 6件だけ

この結果を見て、私たちはこう結論しました——「業務ドメインで自前運用して困っている日本人は、実質存在しない」。業務系クエリを1,724本も投げてこれなのだから、と。

03ところが、Redmineが1件しか出てこなかった

結論を出したあとで、表を見ていて違和感がありました。Redmineが、たったの1件。

これは明らかにおかしい。Redmineは日本でもっとも使われているOSSの業務システムのひとつで、ファーエンドテクノロジーの My Redmine だけで1,700社以上が使っています。書籍も何冊も出ています。それが1件のはずがない。

そこでQiitaのタグを直接引いてみました。

curl -s "https://qiita.com/api/v2/tags/Redmine" | jq .items_count
#=> 1477
壊れていたのは世界ではなく、私の物差しだった
1私の測定でのRedmine「セルフホスト」語で収集
1,477実際のQiitaタグ記事数items_count
1,477乖離

原因はすぐ分かりました。日本人はRedmineを「セルフホストする」とは書かないのです。ただ「導入した」「立てた」「運用している」と書く。「セルフホスト」という単語は、本来ならクラウドSaaSで済むものをあえて自前で建てるという文脈で使われる、比較的新しい言葉です。

つまり——

この測定のいちばん皮肉な性質
自前で運用するのが当たり前になっている領域ほど、「セルフホスト」という語では拾えない。私は「自前運用が根付いているOSS」を探すために、自前運用が根付いていないOSSだけを拾うフィルタを使っていたことになります。

そして、これは2度目の同じ失敗でした。前回の調査では、候補を「GitHubスター300以上」で絞っていたのですが、非エンジニア向けの業種特化ソフトはそもそもGitHubのスター文化の外側にあり★300に届かないことに後から気づいています。どちらも「フィルタが結論を作っていた」という同じ構造の間違いです。

04失敗②:今度は全文検索で数えた

「ならば全文検索で名前を数えればいい」と考えて、Qiitaの検索APIが返す Total-Count ヘッダを使いました。これも間違いでした。

OSS全文検索の Total-Countタグの items_count何が混ざっていたか
n8n101,899271約376倍。短い英数字列が本文中の別の文字列に広くマッチしたとみられる
Outline3,94931約127倍。エディタの「アウトライン」表示など一般語としての用例
Ghost852ゴーストライティング、ghost要素、幽霊セッション等
Superset225数学・型の「上位集合(superset of)」

OSSの名前は英単語であることが多く、全文検索とは相性が最悪です。とくに n8n のような短い英数字列は壊滅的でした。

05正しい数え方(そのまま再現できます)

3回目で採用したのがタグの items_count です。タグは記事を書いた本人が「この記事はRedmineの話です」と申告したものなので、全文一致のような誤爆がほぼありません。

単純にやるなら1 OSSにつき1リクエストですが、それだと未認証の毎時60リクエスト制限にすぐ当たります。タグのランキングをページングすると1リクエストで100件分取れるので、そちらが圧倒的に効率的です。

# 1リクエストで100タグ分の items_count が返る
curl -s "https://qiita.com/api/v2/tags?sort=count&per_page=100&page=1"

# 25ページ=25リクエストで上位2,500タグを回収できる
# → あとはローカルで好きなOSS名を引くだけ
APIの制約(2026-07-19時点の実測)
Qiita API v2:未認証で毎時60リクエスト。超過すると 403 が返り、レスポンスヘッダの Rate-Reset(UNIX時刻)に解除時刻が入ります。APIキーの取得は不要です。
Zenn:検索APIは1ページ48件で打ち止めで、総件数を返しません(実測。どのキーワードでも48が返る)。件数の比較には使えませんので、本記事の数字はすべてQiita単独です。

06実測:日本語記事数ランキング

タグランキングを25ページ分(=上位2,500タグ、記事数150件以上)取得し、そこからセルフホスト可能なソフトウェアを抜き出しました。2,500位に届かなかったものは個別にタグを引いています。

Qiita タグ記事数(items_count・2026-07-19取得)/バーは対数スケール
WordPress6,426
GitLab2,528
Jenkins1,868
Redmine1,477
Zabbix1,227
Dify929
Ollama841
Grafana728
Prometheus670
Keycloak446
Redash409
EC-CUBE335
Mattermost324
Nextcloud290
n8n271
GROWI175
concrete5159
Metabase154
ownCloud131
Open WebUI107
開発・インフラ系 業務・コンテンツ系 生成AI系

100件未満のもの(こちらの方が示唆的でした)

ソフトウェア記事数ソフトウェア記事数
Langfuse74GLPI11
Gitea58AnythingLLM8
Superset36SuiteCRM7
Mautic36Uptime Kuma5
Odoo32NocoDB3
Outline31Paperless-ngx3
DokuWiki20BookStack2
OpenProject17Dolibarr2
Netdata17authentik2
Discourse16Seafile / osTicket / Traccar / Baserow各1
Forgejo14ERPNext0
Matomo12Chatwoot / Umami / Zammadタグ自体が存在しない

比較用:国産SaaS・海外SaaSのタグ

サービス記事数
Slack5,427
kintone2,291
Notion808
Jira420
Backlog401

07この数字から読めること

① 02章の結論は、完全に間違っていました

「業務ドメインで自前運用している日本人は実質存在しない」——これが最初の測定から出した結論でした。Redmine 1,477件。国産SaaSの代表格である kintone(2,291件)と同じオーダーです。存在しないどころではありません。撤回します。

② 上位は「エンジニアが自分のために建てるもの」で埋まっている

WordPress・GitLab・Jenkins・Zabbix・Grafana・Prometheus。Redmineを除けば、上位はほぼ全部が開発/インフラのツールです。これは前回のライセンス調査で見つけた偏りと同じ方向を向いています。セルフホストOSSのカタログ1,332件を数えたときも、業務ドメインのタグが付くのは全体の7.1%でした

そして重要なのは、この層の買い手はエンジニアだということです。エンジニアは自分で建てられます。「代わりに運用します」というサービスの相手としては、いちばん難しい層です。

③ 日本語で作られたものは、日本語記事がある

GROWI 175件、EC-CUBE 335件、concrete5 159件。国産・国内コミュニティを持つソフトは、規模のわりに日本語記事が厚い。当たり前に見えますが、裏返すと重い意味になります——日本語のドキュメントとコミュニティが無い海外OSSは、どれだけ海外で有名でも日本語記事がほぼ生まれない。Odoo 32件、ERPNext 0件、Dolibarr 2件がその証拠です。

④ そして、いちばん痛かったこと

私たちはこの調査の前に、OSSを日本語マネージド化する製品ページを4本作って公開していました。対象にしたOSSの数字を、上の表から抜き出します。

私たちが選んだOSSQiita記事数参考
Mautic(MAツール)36WordPressの1/178
OpenProject(プロジェクト管理)17Redmineの1/87
Uptime Kuma(死活監視)5Zabbixの1/245
Chatwoot(問い合わせ管理)タグ自体が存在しない
私たちが選んだOSS と、その領域で実際に読まれているOSS(Qiitaタグ記事数)
私たちが選んだ4本
  • Mautic 36
  • OpenProject 17
  • Uptime Kuma 5
  • Chatwoot タグ自体が無い
同じ領域で読まれているもの
  • WordPress 6,426
  • Redmine 1,477
  • Zabbix 1,227
  • (参考)kintone 2,291
4本とも、日本語圏で誰も話していないOSSでした
私たちは「海外で人気があり、日本語化されておらず、国内にマネージド事業者がいない」という条件でOSSを選びました。この条件は、言い換えるとこうなります——「日本語の情報が存在しないOSS」。
そしてこの事業で成功している会社を調べたら、全社が逆をやっていました。日本語情報が豊富にあるOSSを選んだのではなく、自分たちで日本語情報を作ってから売り始めていたのです。
「空席がある」と「需要がない」は、外から見ると同じに見えます。私たちは前者だと思って4回連続で後者を選んでいました。

⑤ 生成AIだけが、今まさに積み上がっている

Dify 929件、Ollama 841件、Open WebUI 107件。これらは数年前には存在しなかったタグです。他のカテゴリが10年かけて積んだストックに対して、この3つは短期間で到達しています。日本語圏で新しく情報が生まれている数少ない領域です。

ただし——この領域をマネージドサービスとして提供する経済性は別途計算しました。結論は厳しいものでした

08逆に、この数字では分からないこと

ここまで書いておいて何ですが、この指標にも限界があります。2回間違えた人間として、3回目も疑っておきます。

結局いちばんの収穫だったこと
得られた数字そのものより、「絞り込みの条件が、答えを先に決めてしまう」という失敗を2回続けて踏んだことのほうが収穫でした。
データを集める前に「この条件だと、何が構造的に拾えなくなるか」を一度書き出す。それだけで、今回の2回とも防げました。

データ・出典

  1. Qiita API v2 ドキュメント/api/v2/tagsitems_count/未認証時のレート制限 60req/h/Rate-Reset ヘッダ)
  2. タグ記事数は 2026-07-19/api/v2/tags?sort=count をページングして取得したスナップショットです。
  3. 突合に使ったOSS母集団(917件)は awesome-selfhosted-data から機械判定したもので、詳細は前回の記事に書いています。
  4. ファーエンドテクノロジー My Redmine(導入社数)
  5. Zennの検索APIが1ページ48件で頭打ちになる点は、本調査での実測に基づく記述です(公式ドキュメントは非公開のため、仕様変更の可能性があります)。
本記事の数値は2026-07-19時点のスナップショットに基づきます。Qiitaのタグ記事数は日々増加するため、再取得すると値は変わります。また、タグの表記ゆれ(例:OpenWebUIOpen-WebUI)により、実際の記事数を過小に見積もっている可能性があります。本記事は特定のソフトウェアの優劣を評価するものではなく、日本語圏での言及量という一側面を測ったものです。