Miqto
一次ソースで確認した年表

OSSライセンス変更の年表 ─ なぜ次々と「オープンでなくなる」のか

MongoDB、Grafana、HashiCorp、Redis、Elastic——ここ数年、有名なオープンソースが次々とライセンスを変えて、「オープンソースでなくなった」と話題になりました。
一つずつ一次ソースで追ったら、変更の動機は驚くほど一貫していました。すべて「クラウド事業者によるフリーライド対策」です。そして「AGPLでは止められなかったから、SSPLやBUSLへ進んだ」という進化の系譜が見えました。
年表と、置換・追加・対抗forkの違い、そして利用者側の防御策を整理します。

公開:2026-07-20読了:約14分確認時点:2026-07-20

01動機は一貫している

結論から書きます。これらのライセンス変更は、バラバラに起きているように見えて、動機は一つでした。MongoDB自身が、いちばん率直に書いています。

MongoDBが変更理由を語った公式FAQ
we have observed organizations, especially the international cloud vendors begin to test the boundaries of the AGPL license. ... Rather than litigating this issue in the courts, we are issuing a new license to eliminate any confusion about the specific conditions of offering a publicly available MongoDB as a service. MongoDB SSPL FAQ(2018年、AGPL→SSPL)
要約すると「クラウド事業者がAGPLの境界を試し始めた。裁判で争うより、新しいライセンスで曖昧さをなくす」。開発元の投資に、マネージド提供で乗るクラウド事業者への対抗——これが共通の動機です。
進化の系譜
最初はAGPLで守ろうとした。でも止められなかった。
だから SSPL(MongoDB)や BUSL(HashiCorp)といった、より強い・より広い条項へ進化しました。「オープンでなくなった」の正体は、多くの場合このフリーライド対策の強化です。悪意というより、一貫した経営判断でした。

02主要な変更の年表

一次ソース(各社の公式ブログ・プレスリリース・LICENSE本文)で確認した日付とライセンスです。「置換」か「追加」かも明記します。

OSSライセンス変更 年表(一次ソース確認)
2018-10-16
MongoDB:AGPLv3 → SSPL(置換
「クラウド事業者がAGPLの境界を試し始めた」ため
2021-04-20
Grafana / Loki / Tempo:Apache-2.0 → AGPLv3(置換)
プラグイン・エージェント等はApacheのまま。※報道は翌21日表記も
2021-09-28
ToolJetGPLv3 → AGPLv3
元からコピーレフト。GPLの「SaaS抜け穴」を塞ぐ変更(Apache→ではない)
2022-03-17
n8n:Apache-2.0+Commons Clause → Sustainable Use License
fair-code。OSIオープンソースではなくなった
2022-09-07
Akka(Lightbend):Apache-2.0 → BUSL 1.1
3年後に当該版はApacheへ
2023-06〜08
Sourcegraph:Apache → 独自ライセンス → コアリポ非公開化(2024-08)
source-availableですらなくなった(一次発表は薄く、コミュニティが観測)
2023-08-10
HashiCorp:MPL-2.0 → BUSL 1.1(全製品・置換)
API/SDK/ライブラリはMPLのまま
2023-11
SentryFSLを自ら策定
2年後にApache/MITへ転換する非競合ライセンス(日は諸説)
2024-03-28
Valkey:Redisを fork し BSD-3 のまま継続
対抗fork。Linux Foundation傘下
2024-08-22
Forgejo:MIT → GPLv3+(v9.0〜・段階的
一括ではなく、時間をかけて移行。旧版はMITのまま
2024-08-29
Elastic:AGPLを追加(ELv2・SSPLと三重)
「置換ではなく選択肢を1つ足しただけ」と明言
2025-03-31
Zitadel:Apache-2.0 → AGPL-3.0(v3〜)
proto/API/docsはApache、login/client系はその後MITに整理。遡及しない
2025-05-01
Redis:AGPLv3を追加(RSALv2・SSPLv1と三重、Redis 8〜)
2024年3月にBSD-3→RSALv2/SSPLv1のデュアル化、その翌年にAGPL追加
2026-04
Cal.com:本番コードを非公開化、公開リポを cal.diy(MIT)へ改名
AGPL-3.0→MIT。READMEに「個人・非本番利用に限り推奨」
赤=より制限的な方向への変更/緑=元のライセンスを守る対抗fork。OpenTofu(2023-09・TerraformをMPL-2.0でfork)も対抗forkの代表例です。

03置換・追加・forkを区別する

年表を読むうえで、いちばん間違えやすいのが「置換」と「追加」の区別です。ここを取り違えると、そのソフトがOSI承認のオープンソースかどうかの判定まで変わります。

3つのパターン
置換
元のライセンスをやめて別のものへ。MongoDB(AGPL→SSPL)、HashiCorp(MPL→BUSL)、Grafana(Apache→AGPL)。将来リリースに適用され、旧バージョンは元のまま
追加
既存に選択肢を足す。Elastic(ELv2・SSPLにAGPLを追加=三重)、Redis(RSALv2・SSPLv1にAGPLを追加=三重)。「オープンでなくなった」と単純化すると不正確
対抗fork
制限的変更を嫌い、変更前から分岐して元のライセンスを維持。Valkey(BSD-3維持)、OpenTofu(MPL-2.0維持)、Forgejoは逆にMIT→GPLv3+へ(コピーレフト志向のfork)
とくにElasticとRedisの「AGPL追加」は、むしろOSI承認ライセンスを選べるようにした変更で、方向が逆です。「ライセンス変更=改悪」と一括りにしないことが大事です。

04対抗fork ─ 元のライセンスを守る動き

制限的な変更が起きると、多くの場合「変更前のバージョンから分岐して、元のライセンスで続ける」対抗forkが生まれます。利用者にとっては重要な逃げ道です。

主な対抗fork
制限的に変更した本家

Redis → BSD-3をやめRSALv2/SSPLへ(2024-03)

Terraform(HashiCorp) → BUSLへ(2023-08)

元のライセンスを守るfork

Valkey → BSD-3のまま(2024-03-28)

OpenTofu → MPL-2.0のまま(2023-09)

いずれもLinux Foundation傘下で、クラウド事業者などが支援しています。「本家が閉じたら、緩いライセンスのforkが立つ」のは、いまや定番の展開になりました。

05利用者側の防御策

では、これらのソフトを使う側は何をすべきか。私たちが実践している3点です。

利用者が取るべき防御
  1. バージョンを固定し、どの版がどのライセンスか把握する多くの変更は将来リリースにのみ適用され、変更前のバージョンは元のライセンスのまま。「いつのリリースから変わったか」を必ず記録する
  2. 移行計画と対抗forkの動向を持つValkey・OpenTofu・Forgejoのような選択肢を把握しておく。本家が閉じてから慌てない
  3. 依存の棚卸しをする自分のプロダクトの依存ツリーに、ネットワーク条項の強いライセンスが紛れていないか。表示ではなく本文を読む
私たちのように「OSSを改変して非公開SaaSにする」事業では、この3点は死活問題でした。土台のライセンスが変わると、事業モデルごと崩れます。

06断定しなかったこと

この記事を書くにあたって、一次ソースが取れず、あえて書かなかったことがあります。年表の信頼性は、載せた情報だけでなく「載せなかった判断」で決まると考えています。

書かなかったこと(一次ソースが無い/変更が無い)
HashiCorpがIBM買収後にライセンスをMPLに戻した
一次ソースなし。IBMの買収完了は2025年2月だが、2026-07-20時点でもBUSLのまま。「戻した」は誤り
Fluent Bit / Nextcloud のこの期間のライセンス変更
変更なし。Fluent BitはApache-2.0、NextcloudはAGPLv3で一貫。別名の「Fluent Assertions」との混同に注意
日付についても、一次記事が月までしか言っていないもの(Redisの2024年3月、Sentryの2023年11月)は日を断定していません。確認できた範囲でだけ書いています。
この年表は、私たちがオープンソースを日本語のマネージドサービスとして提供する(Miqto)ために、土台にできるライセンスを見極める中で作りました。あわせて読む:セルフホストOSS 1,332件のライセンスを全数調査したAGPLのOSSをSaaSで提供できるのか「オープンソース」に見えて商用利用できないOSSカタログ

データ・出典(各社公式・一次ソース)

  1. MongoDB SSPL FAQ(2018-10-16・AGPL→SSPL・変更理由)
  2. Grafana Labs:AGPLv3への再ライセンス(本文は2021-04-20)/ToolJet:GPLv3→AGPLv3(2021-09-28)
  3. HashiCorp:BUSL採用(2023-08-10)Licensing FAQ(API/SDKはMPL維持)
  4. Redis:AGPLv3を追加(2025-05-01・三重)Elastic:AGPLを追加(2024-08-29・「置換ではない」)
  5. Zitadel:AGPL 3.0へ(v3.0=2025-03-31)Cal.com:cal.diy(MIT)へ改名・本番非公開化(2026-04)
  6. 対抗fork:Valkey(2024-03-28・BSD-3維持)OpenTofu(2023-09・MPL-2.0維持)Forgejo(v9.0〜段階的にGPLv3+)
  7. その他:Sentry:FSL策定(2023-11)n8n:Sustainable Use License(2022-03-17)Akka:BUSL(2022-09-07)/Sourcegraph:Apache→独自(2023-06)→コアリポ非公開化(2024-08、コミュニティ観測)
本記事は各社の公式発表・LICENSE本文を確認した記録です。内容は2026年7月20日時点のもので、ライセンスはさらに変更され得ます。日付は一次ソースが月までしか示していないもの(Redisの2024年3月、Sentryの2023年11月)は日を断定していません。GrafanaはブログのAprilの表記と報道の日付に1日のずれがあります。Sourcegraphのリポ非公開化は明確な一次発表が薄く、複数の二次報道と関係者発言に基づきます。「置換」「追加」「fork」の区別は各社発表の文言に従いました。会社名・製品名は各社の商標です。