01最大の教訓:順序が逆だった
先に、いちばん高くついた失敗を書きます。評価の順序が逆でした。
① ライセンスを確認する
② §0 セキュリティ監査をする
③ 作れるか技術検討する
④ 最後に需要を見る → 不在で落とす
① まず需要を見る(第0段・5〜10分)
② ここで大半が落ちる
③ 残ったものだけライセンス・§0
④ 作れるかは最後でいい
当たり前に見えますが、実際にはやってしまいます。理由は、ライセンスやセキュリティは「調べれば答えが出る」から気持ちがいいのに対し、需要は「無い」を証明しにくく、判定が気持ち悪いからです。気持ちのいい作業を先にやって、気持ち悪い作業を後回しにしていました。
02第0段:5〜10分で大半が落ちる
需要側の3チェックです。合わせて5〜10分。ここを通らないものは、その先を調べる意味がありません。
- 上流が公式マネージド/有料SaaSを提供しているか提供済みなら即アウト。「本家がやっていない日本語マネージドを我々が」という前提が崩れ、価格の説明もできなくなる。
- Qiita / Zenn に日本語の技術記事が実在するかAPIで記事数を数える(同名の別物を除去すること)。Zenn 0件かつQiita 1桁なら需要不在を疑う。複数の著者が書いた実記事が無ければ、日本で誰も運用していない。
- 日本語への翻訳率ロケールファイルを直接ダウンロードして実測する。高すぎても低すぎても失格シグナル(次章)。
03翻訳率は、両方向から罠になる
私たちの当初の中核仮説は「日本語化されていない=チャンス」でした。これが両方向から壊れました。これは自分たちの前提が崩れた、いちばん大きな発見です。
04第1段:市場と参入障壁の11チェック
第0段を通ったものだけ、市場を詳しく見ます。ここで繰り返し効いたのが、「高すぎる価格帯が空いている」という期待が、毎回事実で否定されたことでした。空いて見える上の価格帯には、たいてい理由がありました。
05第2段・第3段:ライセンスとセキュリティ
ここまで生き残ったものだけ、ライセンスとセキュリティを詳しく見ます。この2段は、他の記事で1本ずつ深掘りしているので、ここでは要点だけ。
- LICENSE本文を実取得するSPDX表示・GitHub API・READMEを信用しない。本文を読むまで用途制限は分からない(実例集)。依存に再販禁止の専有バイナリが紛れていないかも見る
- 任意コード実行が機能の中核でないか数式・SQL・スクリプトを実行させる製品は、認可の境界が製品全体に薄く広がり、テナント分離が構造的に難しい
- フォークは祖先+兄弟のCVEを合算する製品名だけで脆弱性を検索すると、改名前・フォーク元の重大CVEを見落とす
- 認可層が繰り返し壊れていないか権限昇格や他人のデータが見える不具合が反復して出る製品は、テナント境界に使えない
06結局、成立する条件は1つだけだった
約85候補を落とし切った末に残った、私たちのモデルが成立する条件は、たった1文でした。
つまり「製品名 構築」「製品名 日本語」で既に検索している人が実在すること。流入が既にある所にしか、入れませんでした。
→ 流入が作れず死ぬ
運用者はいるが国産管理は空席
埋めている
07カテゴリごと撤退を決めた領域
個別のOSSではなく、領域まるごと「ここは狙わない」と決めたものがあります。私たちの調査の範囲での判断ですが、同じ轍を踏む人のために残します。
| 領域 | 撤退理由(私たちの調査範囲での判断) |
|---|---|
| POS・レジ | 大手が本体無料・決済手数料で回収。決済ライセンスなしでは構造的に不可能 |
| グループウェア | 大手オフィススイートにバンドルされ、機能が真部分集合になりやすい |
| 業務データベース | 国産の低価格製品が定着。その下は無料の表計算 |
| EC | 国産OSSの日本固有エコシステム(決済・法対応・配送連携・制作会社の厚み)を海外OSSは持たない |
| 文書管理・電帳法 | 国産低価格+無料の認証済みサービス(別記事) |
| 労務・会計・税務 | 法改正追随コストが個人に過大(法規の壁とも接続) |
| 医療 | OSSのAGPL採用率が構造的に高く、掘る費用対効果が悪い |
| 介護・保育・美容・葬儀・整備・士業 | 実用品質のOSSが事実上存在しない(=制度依存が重すぎるか、開発者との接点が無い業種) |
データ・出典
- 本記事の一次データは、私たち自身が約85個のオープンソースを同一の基準で評価した記録です。母集団のライセンス機械判定(1,332件)はセルフホストOSS 1,332件のライセンスを全数調査した、日本語記事数の実測は日本人が実際に使っているOSSを実測したに、それぞれ再現方法つきで公開しています。
- 第0段の「日本語記事数」の測り方(全文検索が使えず、Qiitaタグの記事数が有効だった経緯):同上
- 翻訳率の測定(Weblate REST API で公開プロジェクトの ja 翻訳率を取得する方法)と「翻訳は堀にならない」の厳密な検証:「日本語化すれば売れる」は本当か
- 規制系の「認証ゲート」の詳細:「規制があるから需要がある」は罠になりうる