01なぜこれを調べたか
私たちはオープンソースを日本語のマネージドサービスにする事業を探していました。その中でRedmineは「成功例」として何度も名前が挙がります。My Redmineは1,700社以上に使われ、明らかに成立している。
「同じことを別のOSSでやればいい」——最初はそう考えました。でも、Redmineの市場構造をよく見ると、そう簡単に真似できるものではありませんでした。成功の理由が、製品の良さではなく市場のポジションの取り方にあったからです。その構造を分解します。
02本体・情報・ホスティングが1社に集約されている
いちばん驚いたのはここです。Redmine本体を開発しているコミッターが、日本語マネージドを提供する会社の代表取締役でした。
この4つが1社に揃っていることの意味は大きいです。本体の方向性を知り、日本語で情報を発信し、その情報で流入を集め、ホスティングで受け止める。これが一つの会社の中で完結しています。
でも、本体の開発力・日本語情報の蓄積・「Redmine=あの会社」という認知は、ソースコードには含まれていません。垂直統合そのものが堀になっていました。
03プレイヤーと価格を並べた
日本のRedmine関連市場の主なプレイヤーを、価格とともに並べます。すべて各社の公式サイトで確認した現行値です(確認時点2026-07-20)。
| サービス | 提供元 | 価格(税込・公式) | 課金の軸 |
|---|---|---|---|
| My Redmine | ファーエンド | 11,000〜44,000円/月 | 容量(ユーザー数定額) |
| Lychee Redmine | アジャイルウェア | 900〜2,100円/ユーザー + クラウド利用料5,000円/月 | ユーザー数 |
| Planio | Planio GmbH(独) | ドイツ本社と直接契約 | プラン別 |
| Backlog | ヌーラボ | (別系統の国産ツール) | プラン別 |
My Redmineの価格設計が独特です。ユーザー数で課金せず、容量で段階を分けています。
/service/。/price/ は現在404です。)一方のLychee Redmineは、ガントチャートやかんばんを強化した製品で、ユーザー単位の課金です。2026年7月1日からは、プラン料金に加えてクラウド利用料が別途月5,000円かかるようになりました。無料プランもありますが、ガントチャートは含まれず、チケット5,000件・2GBの制限があります。提供元のアジャイルウェアは、テクマトリックスと2017年に販売パートナー契約を結び、販路を広げています。
04なぜ日本の受託文化に刺さったか
価格や垂直統合だけでは、ここまでの定着は説明しきれません。もう一つ、製品設計と日本の開発文化の相性があります。
- 複数プロジェクトを横断で管理できる1つのRedmineで多数の案件を並行管理できる。同時に多くのクライアント案件を回すSI・受託開発の実務に合った。
- チケット駆動が「報告・進捗」の文化に合った課題をチケットで起票し、状態を追う運用が、日本の細かな進捗管理の習慣となじんだ。
- 日本語の情報が最初から厚かった導入で困ったときに、日本語の解説が大量にあった。これが次の採用を呼ぶ好循環を作った。
05コミュニティが「会社のもの」ではない
もう一つ、見落としやすい構造があります。日本語の情報源が、1社に集中していないことです。垂直統合の話と一見矛盾しますが、両立しています。
| 情報源 | 運営主体 | 性質 |
|---|---|---|
| Redmine.JP | ファーエンドテクノロジー | 事業者のオウンドメディア(著作権表示も同社) |
| Redmine.tokyo | 有志のコミュニティ | 関東中心の勉強会。企業公式ではない |
| redmine-users-ja | Google Groups | 日本語ユーザーのメーリングリスト |
だから、一社が事業判断を変えても、Redmineというエコシステム全体は死にません。企業が丸ごと所有しているOSSは、その企業の都合で終わり得ます。Redmineはそうなっていません。
06この構造から学べること
私たちが「Redmineを真似よう」として気づいたのは、真似すべきは製品ではなく、順序と構造だったということです。
本体のコミッターであること
18年分の日本語情報の蓄積
「Redmine=あの会社」という認知
情報を先に積んでから売る順序
ユーザー数でなく容量で課金する安心感
コミュニティを囲い込まない設計
とくに大きいのは「情報が先」という順序です。Redmine.JPが情報を出し始めたのは、商用ホスティングの提供よりも前でした。製品を出してから情報を作るのではなく、情報を積んでから製品を出す。この順序は、私たちが日本でOSSマネージドが成立した事業者を調べたときにも、共通して見えた構造でした。
データ・出典
- ファーエンドテクノロジー 沿革(前田剛氏が2017年11月25日にRedmineコミッターとなった旨)/代表者略歴(2008年9月設立・代表取締役就任)
- redmica/redmica(GitHub) ※「yet another distribution of Redmine」・Maintainer=Far End Technologies・GPLv2/RedMica 1.0.0 公開のお知らせ(2019年11月)
- My Redmine サービス・料金(スタンダード〜エンタープライズ1.5TBの4プラン・税込)
- Lychee Redmine 料金プラン(900〜2,100円/ユーザー・最低10ユーザー・クラウド利用料5,000円/月を2026年7月1日から適用・無料プランの制限)
- アジャイルウェア 会社概要(設立2012年6月1日・従業員59名〈2026年4月〉・売上13億9千万円〈2025年度〉)/テクマトリックスとの販売パートナー契約(2017年4月19日)
- Redmine.JP(ファーエンドのオウンドメディア・著作権表示は同社)/Redmine.tokyo(有志コミュニティ)/redmine-users-ja(Google Groups)
- Redmine 本体の Trac 移行スクリプト/Patch #43918(移行スクリプトの廃止予定・7.0.0で削除予定)
- Backlog(ヌーラボ)の有料利用者数・有料契約件数は、同社の決算説明資料およびプレスリリースに基づきます。「143万人」という数値はWikipediaのBacklog記事の無出典記述で、公式の現行値ではありません(公式は有料利用者150万人以上/2026年3月末時点)。ヌーラボ プレスリリース(有料契約15,000件突破・2025年9月末時点)