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一次資料の確認 + 実地検証

電帳法にOSSで対応できるのか

「電子帳簿保存法に対応するには JIIMA認証が要る」——そう思っていました。調べたら違いました。認証は任意です。
ただし、もっと厄介な構造がありました。事務処理規程で対応するソフトは、適法であっても認証を取ることが原理的にできません。私たちはこの領域でオープンソースを事業化しようとして、前提が崩れました。その記録です。

公開:2026-07-19読了:約14分確認時点:2026-07-19
先に免責
本記事は税務・法務の助言ではありません。筆者は税理士でも法律家でもなく、国税庁とJIIMAの公開資料を確認した記録です。制度は改正が頻繁で、個別の適否は事情によって変わります。実際の判断は所轄の税務署または税理士にご相談ください。
この記事の結論を先に
任意JIIMA認証の位置づけ法律上の義務ではない
対象外規程で対応するソフト=OSSが取れない理由
50万円認証の初回費用審査40万+登録10万・税別
2無料で使える認証済み3件だと思っていた

01資料選びで、最初につまずきました

本題の前に、同じ落とし穴にはまる人がいそうなので先に書きます。国税庁サイトの一問一答には、HTML版とPDF版があり、HTML版は古いままです。

同じ「一問一答」でも中身が違う
HTML版
  • 令和3年度改正前の内容が残っている
  • すでに廃止された「承認申請」の記載がある
  • 条文の引用が旧番号
PDF版(令和7年6月)
  • 現行制度に対応
  • 本記事はこちらを根拠にしています
あわせて条文番号が改正で振り替わっています。真実性の4措置は現在規則第4条第1項、検索要件は規則第2条第6項第5号です。ネット上の解説記事の多くが旧番号(規則第8条第1項)のままなので、引用する際はご注意ください。

02そもそも、何が義務なのか

電子で受け取った請求書や領収書は、電子のまま保存するのが義務です。紙に印刷して保存する方法は、令和3年度改正で廃止されました。

義務化と経過措置の流れ
〜令和3年12月31日
出力書面での保存が可能だった
令和4年1月1日〜
書面出力での保存措置が廃止(=義務化)
〜令和5年12月31日
宥恕措置。出力書面のみの保存も認められていた
この措置は適用期限の到来をもって廃止されました
令和6年1月1日〜
猶予措置(規則第4条第3項)。現在も有効
ただし中身が違います(下記)
「猶予措置があるから当面なにもしなくていい」は誤りです
国税庁は、宥恕措置と猶予措置の違いをはっきり書いています。猶予措置では「出力書面のみを保存することで対応することは認められて」いません。出力書面の提示等に加えて、電子データそのものも保存しておく必要があります。
さらに「相当の理由」は事前申請が不要=事前に可否が確定しません(税務調査で初めて判断されます)。「システム等や社内のワークフローの整備が整っており…資金繰りや人手不足等の理由がな」い場合は適用を受けられない、とも明記されています。整備が終われば使えなくなる措置です。

対象となる「電子取引」の範囲も広く、メールでPDFを受け取る、Webサイトからダウンロードする、クラウドサービス、クレジットカード・交通系IC・スマホ決済のデータ、EDI、ペーパーレスFAX、DVD等の媒体——これらすべてが該当します。

03タイムスタンプは必須ではありません

ここが一番よく誤解されているところだと思います。真実性の確保として認められる措置は4つあり、「いずれか1つ」を満たせば足ります。

真実性の確保(規則第4条第1項)— 4つのうち、いずれか1つでよい
措置① タイムスタンプ付きで受領
送信側でタイムスタンプが付与されたデータを受け取る
措置② 受領後に付与
速やかに(または通常の期間経過後速やかに)タイムスタンプを付す
措置③ システムで担保
訂正削除の記録が残るシステム、または訂正削除ができないシステムで授受・保存する
措置④ 事務処理規程
訂正削除の防止に関する事務処理規程を策定・運用・備付ける
国税庁は一問一答に、措置④で使う規程のひな形を全文掲載しています。つまり④だけでの対応は、想定された適法な方法です。
※タイムスタンプの認定主体は、令和4年度改正により総務大臣が認定する時刻認証業務です(「日本データ通信協会」と書いている記事は古い情報です)。

措置③について、国税庁が挙げている例はこうです。

・電磁的記録の訂正・削除について、物理的にできない仕様とされているシステム
・電磁的記録の訂正又は削除を行った場合には、訂正・削除前の電磁的記録の訂正・削除の内容について、記録・保存を行うとともに、事後に検索・閲覧・出力ができるシステム

— 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」

この「措置③か④か」という分かれ道が、後で効いてきます。覚えておいてください。

可視性の確保として、検索できることが求められます。

検索要件(規則第2条第6項第5号)
  1. 3項目で検索できること取引年月日その他の日付、取引金額、取引先
  2. 範囲を指定できること日付または金額について
  3. 2以上の任意の項目を組み合わせられること※「A又はB」の組合せは不要。段階的に絞り込む形でも要件を満たします

そして、この検索要件には免除の道が2段階あります。ここは記事によって説明がまちまちなので、正確に書きます。

検索要件の免除は2段階
原則
3項目+範囲指定+組合せ が必要
ダウンロードの求めに応じる
範囲指定と組合せが不要に
項目指定は残る
+ 売上5,000万円以下 など
検索機能すべてが不要
「売上高5,000万円以下」は、個人事業者は前々年、法人は前々事業年度で判定します。書面を日付・取引先ごとに整理して提示できる場合も同様に免除されます。
令和5年度改正前は1,000万円でした。古い記事にご注意ください。
※この「売上高」は消費税法上の課税売上高とは異なり、非課税売上を含みます(免税事業者でも5,000万円を超え得ます)。
よくある誤りを1つ潰しておきます
「検索要件が免除されれば、改ざん防止措置も要らない」——これは、どのルートで免除されたかによります。
5,000万円ルートでは、検索要件のほかに①システム概要書の備付け(自社開発の場合)②見読可能装置の備付け③改ざん防止措置(真実性の確保)を満たす必要がある、と明記されています。真実性は免除されません。
一方 猶予措置(相当の理由)では、「保存時に満たすべき要件にかかわらず電子データの保存が可能」とされています。こちらは真実性を含めて免除されます。
この2つは別の制度です。どちらの話をしているか示さずに断定している解説は、疑ってかかったほうがよいと思います。

05では、JIIMA認証は必須なのか

答え
必須ではありません。認証を受けよという規定は、どこにもありませんでした。

国税庁の一問一答は、こう説明しています。

当該ソフトウェアの取扱説明書等で電子帳簿保存法の要件を満たしているか確認してください。また、公益社団法人日本文書情報マネジメント協会(中略)において(中略)要件適合性の確認(認証)を行っていますので、JIIMAが確認(認証)したソフトウェア等は電子取引データ保存の機能要件を満たしているといえます。

— 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」

そして制度の趣旨について、国税庁はこう書いています。

保存義務者の予見可能性を向上させる観点から、JIIMAがソフトウェア等の法的要件認証制度を実施しています。

— 同上

「予見可能性を向上させる」——つまり、利用者が安心して選べるようにするための制度であって、適法性の条件ではありません。認証のないソフトウェア(自作を含む)で要件を満たしても、完全に適法です。

ただし国税庁は、こう釘も刺しています。「電子取引データ保存の要件には、システム関係書類の備付けに関する事項等、機能に関する事項以外の要件もあり、それらを含め全ての要件を満たす必要があります」。認証済みソフトを入れれば終わり、ではありません。

06ここが核心:規程で対応するソフトは、認証を取れません

「認証は任意なら、OSSでも問題ないのでは」と思いますよね。私もそう思いました。ところが、JIIMA自身が認証制度のFAQでこう書いています。

Q2: タイムスタンプ付与や訂正削除の履歴を保存する機能がなく、訂正削除の規程の備え付けで対応するシステムは認証の対象でしょうか?
A2: 本認証の対象ではありません。
電磁的記録の訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付けで対応するソフトは、ユーザーの運用との組み合わせで法的要件を満たすことが必須となるので、ソフトウェア単体の機能では電子取引の要件を満たしていることが確認できないためです。

— JIIMA「電子取引ソフト法的要件認証制度」FAQ
構図はこうです
措置④(事務処理規程)で対応するソフトは、適法である
しかし認証の土俵に上がることができない。
——「認証が取れない」と「法に適合できない」は、まったく別のことです。

そして、これが多くのOSSに当てはまります。汎用の文書管理ソフトは「訂正削除ができない」設計にはなっておらず、運用者が管理者権限でデータを触れる前提で作られているからです。認証を取りに行くなら、結局タイムスタンプか堅牢な訂正削除履歴を実装することになり、そのOSSを選んだ意味が薄れていきます。

認証そのもののコストも壁になります

電子取引ソフト法的要件認証の費用(2026年4月1日改訂・税別)
項目一般JIIMA会員
新規審査手数料400,000円320,000円
登録料100,000円100,000円
更新審査手数料250,000円200,000円
延長申請費用100,000円100,000円
初回は審査40万円+登録10万円=50万円。延長は1回・3年間のみで、その後は更新審査が必要です。申請から取得まで通常でも3か月程度かかり、利用者に納品・提供するマニュアルの提出も求められます。
なお国税庁は一貫して「市販のソフトウェア等」という表現を使っており、JIIMAのFAQには申請組織が日本に事業拠点を持つ旨の言及もあります。
OSSの認証事例を探しました
認証製品一覧(2026年7月10日現在)を取得して走査しましたが、オープンソースと判別できる製品は見つかりませんでした。掲載はすべて法人ベンダーの商用製品です。
ただし「存在しない」と断定はしません。一覧は5つの認証制度に分かれて長大で、製品名だけではOSS由来かどうか判別できない可能性があるためです。「確認できた範囲では見当たらない」が正確なところです。

07「無料の認証済み競合」を数え直したら、2件でした

私たちは当初、社内資料に「バクラク・マネーフォワード クラウドBox・Bill One が無料枠を持ち、価格競争が崩壊している」と書いていました。これは誤りでした。

公開前に各社の公式ページで確認し直した結果
マネーフォワード クラウドBox は無料
2024年6月1日に無料提供を終了。公式告知に「2024年6月1日以降に…アップロードするためには、有料プランのご契約が必要です」と明記
Bill One も無料枠を持つ
見積制で、無料プランは確認できず
無料で使える認証済みサービスが3件ある
確認できたのは2件だけ(下記)
2021年の「容量・期間・人数無制限で無料提供」というプレスリリースは現在は無効です。日本語で「無料で電帳法対応」と紹介している記事の多くが、この古い情報のままになっています。
サービスJIIMA認証無料プラン
バクラク電子帳簿保存電子取引/スキャナ保存あり(0円)
保管〜200件/月、AI自動読み取りはお試し5件のみ
楽楽電子保存あり(ただし「楽楽明細で受け取った書類のみ」
申込は取引先経由。汎用の手段にはなりません
マネーフォワード クラウドBox電子取引/スキャナ保存/電子書類なし(2024-06-01に終了)
Bill One(Sansan)電子取引/スキャナ保存なし(見積制)
freee電子取引/スキャナ保存恒久無料プランなし
楽楽精算電子取引/スキャナ保存なし

※バクラク無料プランについて、公式ページに人数制限・保存期間・恒久性の明記はありません。「無期限」「恒久無料」と書くのは根拠がないので、そう書いていません。

訂正はしましたが、結論は変わりませんでした。「無料で価格が崩壊している」は言い過ぎでしたが、認証済み × 会計連携 × 実質0円から始められるという構図は健在で、ここに後から入る難しさは変わりません。

08OSSで実際にやろうとすると、何が起きるか

私たちは Paperless-ngx(文書管理・OCRのOSS)を候補として検証しました。実際に踏んだ壁を挙げます。

Paperless-ngx を電帳法用途で見たときの実際
法令対応の表明
していません。公式ドキュメント・README・Issue のいずれにも電帳法やJIIMAへの言及はありません(GitHub API検索でも0件)。ドイツのGoBDについてコミュニティ議論があるのみです
監査ログ
存在しますが、設定で無効化でき、コマンドで削除できます。改ざん耐性の主張はドキュメントにありません=措置③として主張するのは無理があります
日本語の全文検索
検索基盤の移行でCJK検索が全面的に壊れ(2026年4月)、約2か月後にbigram方式で修正されました(2026年5月)。形態素解析ではないため、語の境界をまたぐ誤ヒットは原理的に発生します
和暦・日本式日付
「YYYY年MM月DD日」や和暦に対応するプルリクエストはメンテナが却下(需要不足と保守負担が理由)
3項目の保持
カスタムフィールド(Date型・Monetary型)で可能。ただしカスタムフィールドの値が日本語全文検索の対象になるかは未確認です
CJK検索の修正は2026年5月と新しく、実運用の実績が薄いため、「日本語検索が使える/使えない」を実測なしに断定はしません。

加えて、買い手が本当に欲しいものはOCRからの自動転記です。請求書の画像から取引先名と金額を読み取って、そのまま会計ソフトに流し込む——競合が最も磨いている部分がここで、自前で作るなら結局そこを開発することになります。

09私たちの見立てが外れた話

この調査は、「規制があるから需要がある」という仮説を検証するために始めました。電帳法は2024年から義務です。義務なら買わざるを得ない。だから硬い需要がある——そう考えて、社内の候補リストで最高評価(★5)の本命に置いていました。

評価がどう変わったか
電帳法=義務=硬い需要。最有力候補(★5)
★2に下方修正、見送り。技術的には作れるが、勝てる需要がなかった

崩れた理由は3つです。

なぜ崩れたか
  1. 買い手が見る指標が「認証」だった法的には認証なしで適法にできる。しかし買う側はそれを検証できないので、認証の有無で選ぶ。そして規程で対応するソフトは認証を取れない。
  2. 本当の競争軸は「会計連携」だった電帳法は経理業務フローの問題であって、汎用文書管理の問題ではありません。買い手は「認証+会計連携でOCR転記まで手間ゼロ」を求めます。汎用DMSはそのどれでも勝てません。
  3. 皮肉なミスマッチがあったOSSの強みは高機能な検索です。ところがそれが最も刺さるはずの小規模事業者は、そもそも検索要件が免除されています(売上5,000万円以下)。強みが要らない層に強く、強みが要る層は既に囲われている。
ここから得た教訓
「規制があるから需要がある」は、罠になり得ます。
規制適合が価値の中心にある領域では、購買の鍵が「適合の第三者証明」と「既存エコシステムとの連携」に移ります。オープンソースの改良では、そのどちらも持てないことが多い。

この経験から、規制系の候補を評価するときは最初に2つだけ潰すことにしました。①第三者認証が購買条件になっていないか ②無料または認証済みの既存プレイヤーがいないか。この2つで、時間をかける前にほとんど判定がつきます。

誤解のないように、もう一度
本記事は「OSSでは電帳法に対応できない」と言っているのではありません。事務処理規程+検索機能で適法に対応できます(実際、国税庁は規程のひな形まで用意しています)。
言っているのは、「それを事業として売るのは難しい」ということです。自社で使う分には、まったく別の話になります。

データ・出典

  1. 国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和7年6月・PDF) ※本記事の制度に関する記述は原則これに拠っています。同サイトのHTML版は令和3年度改正前の内容が残っているため使用していません。
  2. 国税庁「電子帳簿保存法関係」(制度全体のページ)
  3. JIIMA「電子取引ソフト法的要件認証制度」FAQ(Q2・A2=規程対応ソフトが認証対象外である旨)
  4. JIIMA「電子取引ソフト法的要件認証を受ける方へ」(手数料・期間・提出物。2026年4月1日改訂)/認証製品一覧(2026年7月10日現在)
  5. 国税庁「JIIMA認証情報リスト」
  6. マネーフォワード クラウドBox:有料プラン契約が必要になる旨の告知(2024-06-01)
  7. バクラク電子帳簿保存楽楽電子保存
  8. Paperless-ngx:Issue #12860(CJK全文検索の破損)PR #12862(bigramによる修正・2026-05-29 merged)PR #10109(和暦・日本式日付の対応・却下)
本記事は税務・法務に関する助言ではありません。筆者は税理士・法律家ではなく、公開されている一次資料を確認した記録です。電子帳簿保存法は改正が頻繁で、本記事は2026年7月19日時点で確認できた内容に基づきます。とくに猶予措置の「相当の理由」は事前申請を要さず、個別の事情に応じて判断されるため、本記事では該当可否について断定していません。また猶予措置には法定の期限がない一方、恒久的な保証もなく、将来の税制改正で変更され得ます。自己開発・自己ホストの場合の「システム関係書類の備付け」の具体的な範囲についても、一次資料に明示を確認できなかったため断定を避けています。JIIMA認証の申請資格に関する記述はFAQの記載に基づくもので、基本規程原文までは確認していません。実際の対応方針は、必ず所轄の税務署または税理士にご確認ください。各サービスの価格・プラン・認証状況は変更され得ます。