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一次データ

セルフホストOSS 1,332件のライセンスを全数調査した

「このOSS、商用SaaSに使っていいんだっけ?」を1件ずつ調べるのに疲れたので、セルフホスト可能なOSSの主要カタログに載っている全1,332件を機械的に判定しました。結果はMIT 362件/AGPL 301件/GPL-3.0 226件…。そして、ライセンス表示だけを見ていると絶対に見抜けない制限条項が実在することも分かりました。集計方法も全部書くので、そのまま再現できます。

公開:2026-07-18読了:約9分データ取得:2026-07-17時点
この記事で分かること(awesome-selfhosted-data 全数・2026-07-17時点)
1,332カタログ掲載の全件
68.8%商用SaaSに転用できる917件
301AGPL-3.0全体の22.6%・堂々の2位
7.1%業務用途のソフト95件しかない

01調べ方(そのまま再現できます)

データ源は awesome-selfhosted-data です。有名な「awesome-selfhosted」リストの機械可読版で、1ソフトウェア=1つのYAMLファイルとして管理されています。

ありがたいことに、このリポジトリには licenses だけでなく stargazers_countupdated_atarchivedcurrent_releasecommit_history まで含まれています。GitHub APIのレート制限に悩まされることなく、健全性の判定まで機械的にできます。

# 1. データを取得(約290KB)
git clone --depth 1 https://github.com/awesome-selfhosted/awesome-selfhosted-data

# 2. software/*.yml の licenses を集計するだけ
ls awesome-selfhosted-data/software/*.yml | wc -l
#=> 1332
前提の明示
このリストは「セルフホスト可能なソフトウェア」のキュレーションであり、OSS全体の母集団ではありません。ライブラリ・フレームワーク・CLIツールは基本的に含まれません。また後述しますが、Dify や Open WebUI のように著名でも掲載されていないものがあります(=カタログには被覆漏れがあります)。この点は結論を読む際に割り引いてください。

02ライセンス分布の全体像

集計結果です。上位25ライセンスを、SaaSとして改変を非公開のまま運用できるかで色分けしました。

awesome-selfhosted-data 全1,332件のライセンス分布(複数ライセンス併記あり・2026-07-17時点)
MIT362
AGPL-3.0301
GPL-3.0226
Apache-2.0146
GPL-2.0107
⊘ Proprietary70
BSD-3-Clause37
MPL-2.018
LGPL-3.014
BSD-2-Clause11
LGPL-2.19
Zlib6
EUPL-1.26
Commons Clause6
ISC6
BUSL-1.15
Elastic-2.04
OSL-3.04
SSPL-1.02
その他
SaaS運用で改変非公開が可能 SaaS転用に制限あり/不可

いちばん驚いたのは AGPL-3.0 が301件(22.6%)で堂々の2位だったことです。MITに次ぐ規模で、GPL-3.0(226件)より多い。セルフホスト分野に限れば、AGPLはもはや例外的な選択ではなく主要な選択肢のひとつになっています。

03商用SaaSに使えるのは何件か

「改変を非公開のまま、SaaSとしてホスティング提供する」という用途に絞って絞り込みます。

絞り込みのファネル
カタログ掲載の全件1,332
ライセンス通過(MIT/Apache/BSD/ISC/MPL/GPL/LGPL/Zlib 等)917 / 68.8%
+ 健全(★300以上・半年以内に更新・2026年に活発なコミット・非アーカイブ)577
+ 業務ドメインのタグが付くもの95 / 全体の7.1%
68.8%
ライセンス上は
商用SaaSに使える
43.3%
さらに「健全」も
満たす(577件)
7.1%
そのうえ
業務用途(95件)
※3つの割合はいずれも母数1,332件に対する比率

7割近くが通ります。「AGPLだらけで使える球がない」という感覚は、少なくともこのカタログの範囲では成立しませんでした。

ただし最後の行を見てください。健全な577件のうち業務ドメインのタグが付くのは95件(16.5%)だけで、残り83%はゲーム・メディアストリーミング・写真ギャラリー・フィードリーダー・Pastebin・電子書籍管理——つまり個人・趣味用途です。「セルフホストOSSは業務システムの宝庫」というイメージは、数えてみると実態と違いました。

数えて初めて分かったこと
ライセンスで落ちる数(約390件)より、「業務用途ですらない」で落ちる数(約480件)の方が多い。 ライセンスばかり気にしていましたが、そもそも母集団の性格を見誤っていました。

04AGPLの実務的な射程(誤解していました)

我々は当初、社内ガイドに「AGPL=✕ NG。ネット越し提供でも改変ソース公開義務」と書いていました。これは条文としては正しいが、射程を過大に見積もっていたと分かったので訂正します。

AGPL-3.0 第13条の条文はこうです。

"If you modify the Program, your modified version must prominently
offer all users interacting with it remotely through a computer network
... an opportunity to receive the Corresponding Source of your version ..."
論点実務上どうなるか
発動条件「If you modify」が条件。上流を無改変で運用する限り、第13条の追加義務は発動しない(頒布もしていないためGPL部分も発動しない)
公開する相手条文上は「そのサービスをネットワーク越しに利用しているユーザー」であって全世界ではない。GitHub公開は運用上の簡便策にすぎない
公開する範囲Corresponding Source。ただし大部分は既に公開済みの上流コードなので、実質の新規開示は自分の差分のみ
課金・管理画面など周辺当初ここに「別プロセスにすれば集合著作物(aggregate)として義務が及ばない」と書いていましたが、言い過ぎでした(2026-07-19 訂正)。§5は頒布についての規定で、運用構成を扱っていません。FSF自身が境界は「裁判官が決める」と認めています。→詳細
認証情報・鍵当然に対象外

実例として、Hetzner は Nextcloud(AGPL)ベースのマネージドサービスを月額€4.29(税別・1TB)から提供しており、同社は製品FAQで「このソフトウェアは自社で開発したものではないため、機能を追加できない」と明記しています。Mastodonのホスティング事業者 Masto.host も、公開フォークと上流を実際に比較したところ変更ファイルは0件でした(=改変版が存在しないので第13条が発動していない)。無改変で運用するという道は、現実に成立しています。

※この2点は続編の記事で条文と一次情報から検証し直しました。当初ここには「Masto.host はフォークを公開して第13条に準拠している」と書いていましたが、実際には差分が存在しなかったので訂正しています(2026-07-19)。

それでも避ける理由があるとすれば
法務ではなく競争構造です。AGPL化の目的は多くの場合「第三者のSaaS化を止めること」なので、ほぼ例外なく一次ベンダーの公式クラウドが存在します。本家は機能の出し惜しみと商標で守るため、後発は本家の商用機能に追いつけません。実際 MongoDB は「AGPLではクラウド事業者を止められなかった」と自認してSSPLへ移行しています。
加えて Googleは AGPL を全社禁止しており、B2B販路が狭まる点も実務上の考慮事項です。

05ライセンス表示では見抜けない罠

ここが本記事でいちばんお伝えしたい部分です。 SPDX識別子やGitHubのライセンス表示を信じていると、確実に踏みます。実際に我々が踏みかけた実例です。

ソフトウェア表示上実際に本文を読むと
DifyApache-2.0 系に見えるLICENSE本文に「Difyのソースコードをマルチテナント環境の運用に使ってはならない」と明記。しかも「1テナント=1ワークスペース」と定義済み
Open WebUIBSD-3-Clause条項4が追加されており、50ユーザーを超えるとブランディングの変更・削除が禁止
Budibase「overall GPLv3」と記載依存する SQS専有バイナリで、用途が "internal business purposes" 限定・再販/サブライセンスを明示的に禁止SQS_LICENSEを個別に開いて初めて判明
Open Source POSMIT「フッターの署名を全ページで可視のまま保持し、改変してはならない」=ホワイトラベル不可
Formio「オープンソース」と紹介されがちOSL-3.0。External Deployment条項によりネットワーク提供が頒布扱い=実質AGPL相当
Carbone独自ライセンスで「ホスト型Document-Generator-as-a-Serviceとして提供しない限り無料」=ホスティング提供が名指しで禁止
OpenRemoteGitHub API表示が NOASSERTION本文はAGPL。API表示では判別不能だった
運用ルールにするなら
①SPDX表示・GitHub API・READMEを信用せず、必ず LICENSE 本文を取得して読む②依存に専有バイナリが混ざっていないか確認する(BudibaseのSQSはLICENSE本文だけでは見抜けませんでした)/③LICENSEファイルが存在しないリポジトリは「全権利留保」として扱う(実際に NOASSERTION 表示でファイル自体が404のものがありました)。

06ライセンス変更は「昔の話」ではない

調べていて実感したのは、ライセンス変更は現在進行形で起き続けているということです。今回の調査中だけでこれだけ観測しました。

時期何が起きたか
2018-10MongoDB が AGPL → SSPL(「AGPLではクラウド事業者を止められなかった」と自認)
2021-04Grafana / Loki / Tempo が Apache-2.0 → AGPL
2023-08HashiCorp 全製品が MPL-2.0 → BUSL 1.1
2021-09ToolJet が GPL-3.0 → AGPL-3.0
⚠️2026-07-19 訂正:当初「2025-01にAGPLへ」と書いていましたが、正しくは2021年9月28日で、変更前はApacheではなくGPLv3でした(=もともとコピーレフトで、ネットワーク条項へ強めた変更)
2024-03Redis が BSD-3-Clause → RSALv2/SSPLv1 のデュアルへ(Redis 7.4〜)
2024-08Elastic が AGPL を3つ目の選択肢として追加(ELv2・SSPLは維持=三重ライセンス。置き換えではない
2025-05Redis が AGPLv3 を選択肢に追加(Redis 8〜)
2025-03Zitadel が v3 で AGPL-3.0
2026-04Cal.com がクローズドソース化。公開リポジトリを cal.diy(MIT)に差し替え。ただし上流自身が「個人・非本番利用に限り推奨」と明記

さらにライセンスとは別軸のリスクもあります。2025年10月、KAGOYA CLOUD VPS が Redmine テンプレートの公開を一時停止しました。理由は Bitnami の Redmine Docker イメージが Legacy リポジトリへ移管されたためです。ライセンスが安全でも、公式配布物の提供が止まればサービスは止まります。

07この調査で、我々が間違えていたこと

最後に自分の失敗を書いておきます。同じ轍を踏む人がいるかもしれないので。

この調査で撤回した3つの思い込み
AGPLが多すぎて、使える球が枯れている
68.8%が通過。上澄みだけを見ていた
AGPLは法的に危険なので即除外すべき
危険ではなく競争構造上不利。無改変なら義務は生じない
健全性は★300以上で絞ればよい
フィルタが結論を作っていた。業種特化ソフトは★300に届かない

誤り①「AGPLが多すぎて使える球が枯れている」

数える前は本気でそう思っていました。実際は68.8%が通過。有名なOSSばかり見ていたせいで、そう錯覚していました。有名なOSSほどAGPL/BSLで囲われているため、上澄みだけを見ると「枯れている」ように見えるのです。

誤り②「AGPLは即除外すべき」

第13条は改変が発動条件で、無改変運用なら義務は生じません(04章)。「法的に危険だから避ける」ではなく「競争構造上不利だから避ける」が正確な理由でした。

誤り③ ★300以上で絞ったこと

健全性フィルタとして★300以上を課していましたが、これは失敗でした。非エンジニア向けの業種特化ソフト(設備保全・会員管理・予約など)は、そもそもGitHubのスター文化の外側にあり★300に届きません。結果として「エンジニアが星を付けたもの=エンジニア向け」だけが残る偏りが生まれていました。フィルタが結論を作ってしまっていたわけです。

結論
① セルフホストOSSの約7割は商用SaaSに転用できるライセンスである。
② ただし業務用途のソフトは全体の1割に満たない
③ そしてライセンス表示を信じてはいけない——本文を読むまで分からない制限が実在する。

データ・出典

  1. データ源:awesome-selfhosted/awesome-selfhosted-data(2026-07-17時点のスナップショットを clone して software/*.ymllicenses を集計)
  2. GNU Affero General Public License v3.0 全文(第13条・第5条の集合著作物条項)
  3. Google Open Source: AGPL Policy(全社禁止の方針)
  4. MongoDB: Server Side Public License FAQ(AGPLからSSPLへ移行した理由)
  5. Hetzner Storage Share(Nextcloudの無改変マネージド提供)
  6. Publickey: HashiCorp、全製品をBSLへ
  7. KAGOYA: 【VPS】Redmineの公開一時停止について(Bitnami Legacy移管の影響)
  8. 各ソフトウェアのライセンス条項は、いずれも raw.githubusercontent.com から LICENSE 本文を実取得して確認しました。
本記事は情報提供を目的としたものであり、法的助言ではありません。ライセンスの解釈には争いのある論点(デプロイ設定ファイルがCorresponding Sourceに含まれるか、テーマ・CSSの変更が「改変」に当たるか等)が存在し、本記事でも断定を避けています。実際の採用判断にあたっては、必ず最新のライセンス本文をご確認のうえ、必要に応じて専門家にご相談ください。集計値は2026-07-17時点のスナップショットに基づき、カタログの更新により変動します。